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ツバメ号とアマゾン号


「ツバメ号とアマゾン号」(Swallows and Amazons)はイギリスの作家アーサー・ランサム(Arthur Ransome)の児童小説で、これを含む12巻のシリーズものは、夏休みなどを利用して子どもたちがヨット遊びをする物語です。冒険心をくすぐるストーリーと、当時の自分と同じ年代の子どもたちがA級ディンギーを駆って遊びまわる様子がなんともうらやましく、私もかつて夢中で読んだものでした。そして、当時私はまだヨットに乗ったことがなかったのですが、これらの小説を通じてヨットや海のことを覚えていきました。

これらは私にとってはおもしろい小説であったものの、一般的にはどれくらい読まれているか分からなかったのですが、ホイチョイ・プロダクションの映画「彼女が水着にきがえたら」に出てくるライバル関係にある二つの船(一つはヨットでもう一つはモーターボート)の名前が「ツバメ」と「アマゾン」だったので、それなりに読まれているのかな、と思ったりもしました。

このシリーズの舞台は、主に2ヶ所。イギリスのノーフォーク湖沼地帯(Norfolk Broads)と湖水地方(Lake District)で、「ツバメ号とアマゾン号」は後者です。

ノーフォーク湖沼地帯のほうは、物語に実在の地名が出てくるのではっきり分かります。いつかは行かねば、と思っていたところ、20年ほど前にノリッジ(Norwich)に行く機会がありました。ただし出張だったので街から出ることはできず、単にそれだけで終わりましたが、客先の偉い人のオフィスに、ファイアーボールに乗ったその人の写真が飾ってあり、いかにも、という感じがしました。

その後、10年ほど前に、今度は休みを使って3日間ほどかけて車でノーフォークをまわりました。ポッターヘイガム(Potter Heigham)のあたりで電動のレンタルボートを借り、そこらをクルーズしました。水路沿いのところどころにパブがあり、その前にボートを舫って一杯やる、というようなこともできました。海沿いの町グレートヤーマス(Great Yarmouth※)にも行ってみたのですが、そこには派手なネオンサイン(それもラスベガスにあるものをそっくり真似たもの)が林立し、雰囲気をぶち壊していました。今はどうなっているか分かりませんが。

一方、湖水地方のほうは、物語の中では地名が変えられていて(登場人物たちが遊びの中で川や岬や島に自分たち独自の名前をつけている)、現地の人から「ツバメ号とアマゾン号」の舞台は湖水地方だよ、と教えてもらうまでは、そこがそうだとは分かりませんでした。しかし分かったからには行かねばならん、ということで出かけました。が、湖水地方はイギリスでも屈指の観光地。行ったのは3月だったのに道には人があふれ、車は渋滞、ホテルもレストランも満杯。やっと空きを見つけて入ったB&Bの主人からは、これからハイシーズンに向けて人がさらに増える、特に7月、8月は来てはいけない、と言われる始末。物語の世界に浸るのも楽ではありませんでした。

※ mouthは「口」なので、河口にある町には「~マス」という名前がついていることがあります。ヤーマス(Yarmouth)はYare川の河口、という意味。

2008年4月29日 西野・記


ノーフォーク湖沼地帯 ノーフォーク湖沼地帯
ノーフォーク湖沼地帯 (英国、1997年8月)
郷愁を誘う木の船、木のマスト、木綿のセール、ガフリグ。川幅が広くなって湖のようになったところ、という意味でBroadsと呼ばれる。狭い水路だが、両岸の土手は草がぼうぼうなので船をぶつけても平気。岸にぶつかった反動でタックする。[画像クリックで拡大]
ノーフォーク湖沼地帯 (英国、1997年8月)
ところどころにこのような船溜まりがある。寝泊まりできる小型のボートでのんびりと内陸部をクルーズするのがイギリス流の余暇の過ごし方の一つ。[画像クリックで拡大]
ノーフォーク湖沼地帯 ウィンダミア湖
ノーフォーク湖沼地帯 (英国、1997年8月)
貸しボート屋でもらった地図。黄色の菱形の数字は係留場所、自転車のマークは貸し自転車屋、足跡のマークは散歩道、白の四角は電動ボートの充電場所( これ、イギリスのコンセントの形です)。水路の場所によってそれぞれ制限速度が決められている。 [画像クリックで拡大]
ウィンダミア湖 (英国・湖水地方、1998年3月)
「ツバメ号とアマゾン号」に載っている地図の形からして、おそらくその舞台であろうと思われるウィンダミア湖(Windermere)。ただし物語の内容は実際のウィンダミア湖と合わない部分もある。
湖水地方というと、ベアトリクス・ポッターの「ピーター・ラビット」やワーズワースが有名。[画像クリックで拡大]




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